調査研究

ハンドウイルカ,ハナゴンドウの物をともなった社会的遊び

                        PLoS ONE 13(5): e0196658

 

ハンドウイルカ,ハナゴンドウの物をともなった社会的遊び
Social object play between captive bottlenose and Risso’s dolphins

池田比佐子1,駒場昌幸1,駒場久美子1,松谷綾夏1,川久保晶博1,中原史生2
1西海国立公園九十九島水族館海きらら
2常磐大学

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【video 1】水中でボールの受け渡しをするハナゴンドウ(リリー)とハンドウイルカ(ニーハ)
      https://doi.org/10.1371/journal.pone.0196658

はじめに
  動物の遊び行動の研究では,動物の遊びを移動遊び,対物遊び,社会的遊びの3つに分類して研究されてきた。物をともなった社会的遊び(SOP)のように、対物遊びと社会的遊びという2つ以上のカテゴリーの特徴を併せ持つ遊び行動についてはほとんど研究がなされていない(Shimada, 2006)。ハンドウイルカでは複数の個体が関与した対物遊びの報告があるが(Greene et al.,2011)、物の所有ということを考えた場合,見た目上同じもので同時に遊ぶことはあっても,所有権を積極的に移動させる(譲る)行動は観察されていない。霊長類では,物の所有に関して、たとえ価値の高いものの所有者が自分より劣位な個体であっても、すでに他の個体に所有されているものを巡って、優位な個体は直接競合しないといういわゆる先行所有者尊重の原則がはたらくことが知られているが(Bakeman and Brownlee, 1982)、イルカ類でこの様な原則があるかはわかっていない。今回、九十九島水族館海きららで観察された、水中で他個体にボールを受け渡すという物をともなった社会的遊びについて報告する。

 方法
1.データ収録
  対象は、九十九島水族館で当時(2012年9月9日)飼育されていたハンドウイルカのナミ、ニーハ、ハナゴンドウのリリー。イルカのプログラム後、イルカプールにボール2個とおもちゃ2個を入れて遊ばせていたときに撮影をおこなった。個体間でボールの移動があった際に、ボールの所有者とボールの受け渡しを行っている個体を撮影した。

2.解析方法
  ボールの受け渡しに関して、まずボールを口でくわえている状態をボールの所有権をもっているとし、ボールの受け渡しすなわち所有権の移動とは、もともと所有権をもっていた個体が口からボールを離し、別個体がボールをくわえることとする。また今回、ボールを非所有者側から要求され、それに応えて渡しているように見える場面があった。相手にボールを要求する要求行動とは、2個体が並泳しボール所有者の口元に非保有者が吻先を近づけ、さらに所有者の口からボールが離れる前から非保有者が口を開けている行動をそれとした。

 結果
1.ボールの受け渡し行動 
 個体間のボールの受け渡しは,2012年9月9日16:14から16:21の間に観察された(Video 1).7分間の観察の間に4分43秒のビデオ撮影が行われた.

1)観察時間中のボールの所有権の移動は37回であった。2個体間でボールが往復したのは、ハンドウイルカ・ニーハとハナゴンドウ・リリーの間で13回、2個体間で一方向に移動した回数は,リリーからニーハが3回,ニーハからリリーが2回,ハンドウイルカ・ナミからニーハが1回だった(Fig 1).3個体間で所有権が一方向に移動したのは2回で、どちらもリリー、ナミ、ニーハの順だが、そのうち1回は最後リリーにボールの所有権が戻っている(Fig 1)。

[Fig 1]
ボールの受け渡し図
それぞれの場合におけるボールの移動先が矢印の方向となる。https://doi.org/10.1371/journal.pone.0196658

2.要求行動後の受け渡し
  26回の要求行動のうち、22回所有権の移動があった。16回のリリーの要求行動後にニーハからリリーへ所有権移動したのは12回、9回のニーハの要求行動後にリリーからニーハへ所有権移動したのは9回、1回のニーハの要求行動後にナミからニーハへ所有権移動したのは1回だった。ナミとリリーはニーハの全ての要求に応えたが、ニーハはリリーの要求行動に4回応えなかった。したがって、所有権は要求行動によって常に変化するとは限らなかった。

イルカ類では今までに報告例の少ない複数の個体が関与した対物遊びにおいて、積極的に物の所有権を移動させる物をともなった社会的遊びが初めて確認された。また、ハンドウイルカとハナゴンドウの異種間における物をともなった社会的遊びも初めて確認できた。ハンドウイルカのニーハとハナゴンドウのリリーが他のどの組み合わせよりもボールの受け渡し回数が多く観察されたが、普段の個体間関係が影響を及ぼしていたものと考えられる。また、今回の観察では最終的には先行所有者にボールが戻る場合も戻らない場合もあった。よって、霊長類にみられる先行所有者尊重の原則があるかは明確には確認できなかった。今後さらなる研究を行う必要がある。さらに、チンパンジーと同様にイルカ類も他者の要求が理解でき、さらにその要求に応じることができるということが確認できた。

Ikeda H, Komaba M, Komaba K, Matsuya A, Kawakubo A, Nakahara F (2018)
Social object play between captive bottlenose and Risso’s dolphins. PLoS ONE 13(5): e0196658. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0196658